YOSHITADA IHARA'S ART MUSEUM 井原良忠のEARTH WORK

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1999年7月23日

21世紀学会

井原 良忠(エコロジー・アーチスト)、竹重 勲(環境カウンセラー)

スナゴケによる環境負荷低減実験(Part2)

1.目的

平成9年度の21世紀学会共同研究に於いて、スナゴケが太陽光と雨水のみと言う過酷な環境でも順応して育つ植物として開発が進められていることを知り、これが環境負荷低減に有効であると言う仮定のもとに、モスキング・カーペット化された、132mmX162mmのスナゴケを4枚セットとして鉄板の台に載せ、合わせてスナゴケを載せないものと、上下の温度を比較したところ、スナゴケを載せた方は、載せない方に比較して、16―19℃下の温度が低いことが判明した。これはスナゴケの断熱作用と蒸散作用によるものと推定される。

今年はこれらの作用が環境負荷低減、即ち気候緩和効果による空調などのエネルギー消費の削減にどう関連するのかをより深く研究することを目的とした。

一方モスキング・カーペットは、スナゴケを手編みにより薄板状にしたもので、如何にも手間がかかり実用化は難しいのではないかと言う声が共同研究者の内部にもあったが、スナゴケをステンレスのワイヤー等で編むのでなく、稲の苗床を活用して、スナゴケ自身で結合する「NTハビタット・モス・キーパー」も開発され、モスキング・カーペト方式と比較して蒸散量を比較する必要もあった。

また今後の実用化に向けて自然のままに放置されたスナゴケがどうなるのか、「NTハビタット・モス・キーパー」が壁面等でどう保持、生育されるのか又エコロジカルアートとして今後どう活用するかも合わせて研究を進めている。

2.スナゴケの空調負荷低減実験

スナゴケの断熱作用、蒸散作用が空調負荷に実際どう影響するのか、約88Lの内容積のスチール箱(衣装箱)2個を活用し、1個には5面にモスキング・かーペット方式のスナゴケを貼り付け、1個はスチールのままとし、下面には断熱材を敷いて、スチール箱の内部の温度が太陽光の変化でどうなるか計測した。種々の条件と場所で実験を実施したが代表的なものを次に示す。 実験装置は図(1)に示す。

2-1 完全乾燥状態 H10/9/8 加古川市

スナゴケありとスナゴケなしの内部の温度は図(2)に示す。時間の経過とともにスナゴケありの内部温度の方が高くなり、温度が下降しても、スナゴケありの方が高い。これはスナゴケが完全乾燥状態ではスナゴケは保温材として作用している。一般の植物は通常は土壌の水分を吸収して葉から蒸散さして環境負荷の低減をしている。スナゴケは土壌をもたずスナゴケ自身の特異な保水性により蒸散していると思われる。と言うことは夏期には適当な散水により保水させることが必要であることが分かった。

丁度我々共同研究のグループがこの実験を開始した直後、9月11日、NHKの「なるほどサイエンス」で山口大学工学部羽田野助教授による特殊な多孔性のコンクリートブロック状のセラミックを屋根に敷き、水を撒くと、1.5時間ぐらいで部屋の温度が2―3℃低下するという実験が放映された。我々の目的としていることと全く同一である。コスト、景観等はスナゴケが有利ではないか。種々この実験を進めて多孔性セラミックと融合出来ないものか。

2-2 冬期における保温性 H11/1/22-2/5

加古川市で実験したスチール箱2個を明石市に運び、冬期殆ど雨の降らない状態で早朝の温度が1℃―2℃まで低下する時どうなるか。図(3)に結果を示す。温度が12℃近くになると箱内の温度はスナゴケあり、なしで殆ど差はないが、温度が2℃以下になるとスナゴケありの方が2℃高く、保温効果が明らかにある。ただしケース内は完全に密閉されていないので実際はこれ以上の差があると思われる。

2-3 スナゴケの冷却性 H11/5/5 明石市

スナゴケが雨で十分に保水した直後気温が20℃以上になった時、箱内の温度はどうなるか、図(4)に示す。太陽が直射している間はスナゴケありのスチールケース内が低く、太陽光の直射の最も激しい時は6℃ほど低い。これは明らかにスナゴケの蒸散効果によるもので、夏期のエアコンピーク電力削減に有効である。

本年度の実験に於いて小さいスチール箱でスナゴケの蒸散作用による冷却効果と保温性による暖房エネルギーの節減は実証された。今回はモスキング・カーペット式のスナゴケで実験したが、今後主流となると予想されるNTハビッタト・モス・キーパーによりスケールアップした実験と数値解析をする必要がある。即ち、蒸発熱により内部の温度はいくら低下し、効率はどうなるのか。

3.スナゴケの蒸散実験

スナゴケの環境負荷低減、とくに夏期のエアコンのピーク電力削減は、スナゴケの保水性と蒸散効果によるものと考えられる。そこでスナゴケをハカリに載せて、太陽光による蒸散量と保水期間を数値的に把握することにした。

3-1 モスキング・カーペットの蒸散量  H10/10/5-11 明石市

32.5cmX32.5cmのモスキング・カーペットを平坦なプラスチックの板の上に置き、これを2Kgのクッキングハカリに載せて、時間経過による減量を計測した。 結果は図(5)に示す。

今回の実験では散水により飽和状態に保水されたスナゴケにより計測した。2日目に蒸散量が減少しているのは、天候が曇りで、しかも小雨だったことによる。スナゴケの蒸散量の最高値は0.06cc/cm2・h程度で、これは夏期のケナフの十倍である。保水量が減少すると蒸散量は減少するが、3―4日は蒸散作用がある。乾燥状態では蒸散量はなくなる。

3-2 NTハビッタトの蒸散量(1) H11/2/20-23 明石市

新開発されたばかりのNTハビタット24.5cmX24.5(600.25cm2)を8Kgのクッキングハカリに載せて時間経過による減量を計測した。結果は図(6)に示す。これは気温がマイナス2℃―プラス6℃という非常に寒い状況であったが最高は0.06cc/cm2・hで、こういう寒い時もスナゴケは活発に活動している。しかし保温性能との関係は今後研究する必要がある。

3-3 NTハビタットの蒸散量(2) H11/2/27-3/5 明石市

開発されたNTハビタットの改造タイプ57.0cmX27.0cm(1539cm2)を8Kgのクッキングハカリに載せて時間経過による減量を計測した。結果は図(7)に示す。これは気温が2℃―13℃であったが最高蒸散量は0.04cc/cm2・hとモスキング・カーペットより少ないが、その分保水時間は長い、スナゴケのキーピングの方法で蒸散量が異なることが分かったが、これが冷却性、保温性にどう関係し、環境負荷低減にどう関係するのか研究が必要である。

3-4 NTハビッタトの蒸散量(3) 明石市

開発されたNTハビタットの改造タイプのスナゴケが長期に降雨を受けなかった時、重量がどうなるのか、これは蒸散量、保水性等を解明してスナゴケの謎を解き、環境負荷低減への活用に有効となる。結果は図(8)に示す。スナゴケは20gから60gの範囲で空中の水分を吸収して保水をしている。

スナゴケの生命力と保持性

人工的に固定化されたスナゴケが降雨と太陽光だけという自然の中でどうなるのか、実際に確かめる必要があった。88Lのスチールケースの5面に貼り付けたモスキング・カーペット式のスナゴケは水平、垂直、コーナー部と種々の状態で生育している。長期に降雨がないとスナゴケは仮死状態になるが必ず再生すると言われている。実際にスチールケースの垂直面の下部は秋から春にかけての乾燥期には完全に仮死状態になるが、雨と強い太陽光で逐次再生しつつある。

NTハビタットはステンレスで編んだモスキング・カーペット方式に比して壁面での保持はむつかしいがシリコン材を活用した保持方法等を研究中である。

尚、東京都はビル緑化へ規制強化する方針であり、壁面・屋上も面積基準に加える予定であり、之に対してスナゴケより太陽光が少なくても発育し、茎が硬く、少々の引張りではちぎることができない、シノブゴケやハイゴケが開発されつつあり、これらが環境負荷低減にどのように影響するのか市民レベルの研究として今後取り組む必要がある。

図(9)に瓦屋根に群生するスナゴケの写真及び図(10)にステンレスと石材と共生したエコロジーアートの写真を示す。(彫刻家井原良忠の作品より)