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都市の緑化が、住民にうるおいを与え、やすらぎを与えると同時に、気象緩和効果による空調などのエネルギー消費の抑制や、CO2や他の大気汚染物質の吸収に有効であるといわれている。その一つの方法に屋上緑化があるが、従来の方法では建設コストの上昇や維持費の発生などが課題として指摘される一方で、夏季の気温上昇の緩和、省エネルギー効果、緑のネットワークとしての効果なども指摘されている。
ここでは、スナゴケというコケの一種を用いて、その気象緩和効果について簡易な実験を行い、その効果を検証することを目的とする。
スナゴケ(Racomitrum Canescens)ば、特に強い光の当たる場所を好んで生育する地被植物で、太陽光と雨水のみという過酷な環境でも順応して育つ植物として研究開発が進められている。
その中で、スナゴケの生命を推持したまま、ステンレスの針金により手縄みによって丹念に縄み上げた薄板状のモスキング・カーペットに加工して、これをさまざまな場所に貼る方法が開発されつつある。既に、当研究メンパーで彫刻家の井原氏は、実験的なエコロジカルな現代アートとして、石やステンレス・ガラス等と組み合わせた彫刻を制作し、インターネットによる映像発信等を通じてアメリカ、カナダなど世界から反響を得ている。
モスキング・カーペット化された132mmx162mmのスナゴケを4枚セットとして、図5のような鉄製の板の台の上に乗せ、晴天の屋外で表面と鉄板裏面の温度変化を計測した。合わせてスナゴケを乗せない同様の装置についても計側し、これを比較した。
スナゴケ:スナゴケなし
表温度
裏温度
表温度
裏温度
図5実験装置の概略
計測は、3月6日(気温11~12℃)および5月20日(気温27~30℃)の日中(午前10時~午後2時)に、三田市弥生が丘の深田公園内芝生広場にて行なった。表面温度の計測には放射温度計(ミノルタ505)を使用し棒温度計とデジタル内外温度計を併用した。
モスキングカーペットは、初回時には垂直状態に保管されていたもの、2回目には水平状態に保管され4日間雨に当たっていない状態であった。計測では、参考のため、スナゴケ以外の地被植物数種についても表面温度も計測してみた。
スナゴケを乗せた鉄板と乗せない鉄枚の表面と裏面の温度差は、初回が約19℃(図6)、2回目が約16℃(図7)程度であり、スナゴケが太陽熱による鉄板の温度上昇を抑制している効果が明らかに現われた。
これは、スナゴケによる断熱効果とモスキングカーペットからの蒸散作用によるものと推定される。とくにモスキング・カーペットの保水カの大きさは、第2回の計測終了時(すなわち5日間晴天に置かれた状態)でもまだかなりの水分を含んでいたことからも実感できた。
また、計測によれば、鉄板表面の温度は正午を過ぎて日射量が減少すると低下したが、スナゴケ表面の温度はその後も上昇し、低下しにくかったことから、モスキング・カーペット自身に保温性があるのではないかとも推察された。したがって、夏のタ方などには、カーペット自身が保持する熱によって気象緩和効果を減退させる懸念もあり、今後の調査課題といえる。
モスキング・カーペットは屋上だけでなく、壁など垂直面にも設置可能である。また、メンテナンスがほとんどフリーである点と、建物に複雑な防水処理が不要な点、土壌が不要など従来の屋上緑化植物に比ぺて軽量で済む点、景観的にも均一なテクスチャーで美しいなど、優れた点が多く、建物の気象緩和、そして省エネに役立つ植物素材として、今後の広凡な適用が期待される。
問題は製作コストであり、栽培技術の開発、カ一ペットにする際の機械化などが課題となろう。今回はガーデニング材料としても用いられる数種の地被植物も調査した。それぞれ差異はあるものの気象緩和効果が認められた。ガーデンニングの広がりとともに、植物のこのような利用についても検討されていくぺきであろう。
待機電カの使用など、私たちの知らないところて環境への負荷をかけてしまっていることか多い。また、便利さを求めるゆえの生活様式や生活慣習も、環境への負荷の軽減という視点から個々に点検し、改めていく必要があろう。 法律で用いられる用語の一つに「未必の故意」がある。これは、「行為者が罪となる事実の発生を積極的に意図・希望したわけでほないが、自己の行為から、ある事実が発生するかもしれないと思いながら、発生しても仕方がないと認めて行為する心理状態(広辞苑第四版より)」をいう。純枠な故意とまでは行かないが、過失ではなく、一種の故意である。
温暖化をはじめどする地球環境問題や次世代へどのような環境を残せるのかを考えた時、環境に配慮して生活しようどする者たちにとっては、今日の日常生活はあらゆろ場面でこの「末必の故意」に満ちていて悩ましい。
環境に関しては「未必の故意」を感じることのない環境適合型の杜会の構築を目指していきたいものである。
共同研究者
澤木昌典(代表)/ 粟野喜久美 / 井原良忠 / 江見 淳 / 葛西市治
庄司冨美子 / 樽井道夫 / 津田美智子 / 竹重 勲 / 中瀬 弥生 / 永浜 裕
中亜いち / 松本良子 / 八木 宏 / 渡辺邦也 /渡辺雄一
(1998年7月18日報告)